乃木坂ファン以外に需要が無い「Xperia View」はSONY伝説のデバイスとなるか

オリジナルVRコンテンツ Xperia View x 乃木坂46 いつか混ざりたいものです Xperia Viewで、乃木坂46の特等席ができました 私たちに混ざってみませんか? ©乃木坂46LLC

SONYから需要不明のデバイスが登場

筆者のXperia View(Xperia 1 ⅲで撮影)

「Xperia View」はSONYから2021年11月に発売された、Xperia専用のビジュアルヘッドセットである。定価は29,700円となっている。公式のスペシャルページも準備されており、まあまあ力が入っていることが伺える。

しかしこのXperia View、Oculus Quest 2のようにそれ単体で動作するオールインワン系のVRヘッドセットではない。あくまで、Xperiaというスマホ(これもSONY)をはめ込んで使用するものである。言ってしまえば、ただのレンズだ。

ただのレンズが約3万円

Oculus Quest 2(128GB版)が大体37,000円くらいで買える(2022年2月)ので、それと同価格帯の「レンズ」ということになる。

誤解を恐れずに言うとこのデバイス、需要も意味も不明である。

買わない理由が多すぎる

需要が不明ということはつまり、買う理由よりも買わない理由の方が多いということである。私が個人的に思うXperia Viewを買わない理由は以下である。

Xperiaを持っていないと使えない

Xperia Viewは、Xperiaを持っていないと使えない。これが全てと言ってもいいくらいハードルが高い。

しかも、Xperiaの中でも「Xperia 1 III」と「Xperia 1 II」にしか対応していない。

さらに言うと、「Xperia 1 III」は15万円程するハイエンドスマートフォンである。Xperia Viewと合わせると18万円にもなってしまうため、普通の人はこの時点で検討から外れる。

Xperia 1 IIIを持っていたとしても買わない

「Xperia 1 III」と「Xperia 1 II」を持っている人ならXperia Viewを買うべきかというと、そうでもない。なぜなら、ほとんど同じ価格帯でOculus Quest 2があるからだ。厳密にはOculus Quest 2の方が数千円高いけど、コンテンツの幅が広くて利便性も高いオールインワンVRヘッドセットであるため、機能やスペックを普通に見比べると多くの人はこちらを選ぶと思う。

敢えてXperia Viewを選ぶのは、よほどのSONY好きか、よほどのFacebook嫌いのどちらかだろう。

スペックに特徴が無い

3万円弱(Xperia 1 IIIと合わせると18万円)の価値があるスペックなのかというとそうではない。画質に関しては搭載するスマホに依存することになるが、例えばXperia 1 IIIのディスプレイ解像度は3,840×1,644(4K)でフレームレートも120Hz出すことができ、スマートフォンの中では最高レベルである。さすがSnapdragon 888を搭載しているだけのことはある。

しかし、VRを見るときは画面を2分割にするため、3,840×1,644の2分割で片目1,920×1,644になる。Oculus Quest 2の解像度が片目1,832×1,920なので、それよりも若干悪い。

一方、視野角はOculus Quest 2が約100度なのに対してXperia Viewは120度とこちらはしっかり勝っている。これはVRの没入感という意味では良い点だ。ただ、やはりスマホと合計で18万円というのが何とも言えない。

総合的に見比べるとOculus Quest 2が安すぎることもあるがどうしても見劣りしてしまう。価格に見合ったスペックかどうかというと、少し微妙というのが正直なところ。何か尖った部分があれば検討の余地もあるが、そういった部分も見当たらない。

コンテンツが実質DMMのアダルトVRのみ

Xperia Viewで視聴できるコンテンツは、現状ではDMMと360ChannelのVR動画のみとなる。(もちろんゲームとかできないし、PCに繋いで映像出力もできないのでホントにこれだけ)

それぞれのサービスを見てもらえればわかるが、360Channelはそもそも動画の数が多くない。DMMの方は一般向けのVR動画は360Channelよりさらに少ない。しかし、DMMはアダルトVRの数がとても多い。つまり、実質DMMのアダルトVRしか見るものが無いのである。(ちょっと言いすぎだが)

別でイヤホンも必要

VRを見ているときは視界が完全にシャットアウトされるので、部屋に誰か入ってきても気付けない。一人暮らしなら問題ないが、家族がいる人は音が漏れていないか気になるところ。そのため、イヤホンも別途必要になる。

私が買った理由

とは言え、私はXperia Viewを買った。それはなぜか。

元々Xperia 1 IIIを持っていてVRにも興味があった

上でも書いた通り、Xperia Viewを使うためにXperia 1 IIIを買うというのは経済合理性に欠けており、選択肢としてはありえない。しかし私は元々Xperia 1 IIIを使っていたので、それなら試しに買ってみようかと思ったのがきっかけだ。

それに、今までVRというものに興味はあったもののなかなか踏ん切りがつかなかった自分にとっては、Xperia Viewがいい機会になった。逆に言うと、それくらい色々な条件がタイミング的に揃わないと買う理由は無い。

Oculus Quest 2を買いたくなかった

Facebookアカウントの登録が必須であるOculus Quest 2に気持ち悪さを感じていたため、個人的にOculus Quest 2は買いたくなかった。その点、SONYなら信頼できる(してる)し、他の製品も好きなので、Xperia Viewがコストパフォーマンスの著しく悪いデバイスであることを重々承知した上で買ったわけである。

乃木坂46のコンテンツが無料で見れた

Xperia Viewの宣伝のため、乃木坂46のコンテンツが一定期間(2022年4月末まで)無料でダウンロードして視聴できるようになっている。私はそこまで熱狂的なファンという訳ではないが、初めてVRを試しで見るには良いコンテンツだと思ったのも後押しになった。

こちらに関しては、特設ページも用意されている。

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特設ページ

ただ、このコンテンツは立体的に見える3DのVR動画ではなく、単なる360°動画であることには少し注意が必要。

実際使ってみて分かった悪い点

スマホの温度が急上昇する

2,30分視聴しただけで、温度が上がりすぎて動画の視聴中にアラートが出てしまう(映像が途中で止まったりはしないがポップアップでアラートが出る)。Xperia Viewに入れた状態だと、スマホが密閉されているため熱の排出が上手くできていない模様。今のところ壊れたりはしていないが、手で触ると火傷するくらい(本当に)熱くなる。ちゃんと動作テストしたのか心配になるレベル。

ディスプレイに厚めの強化ガラスを貼っていると中に光が漏れる

スマートフォンの画面が割れないように強化ガラスなどの保護シール類を貼っている人は多いと思う。私はその中でも少し厚めの(といっても0.4mmくらい)の強化ガラスを貼っているのだが、Xperia Viewにはめ込むと少しガラスの分隙間ができ、ヘッドセットを覗いた時にその隙間から光が漏れてしまう。

VRの没入感を出すためにできるだけ外の光は中に入らない方が好ましいのだが、この上下の隙間がライン状に光って見えるのが気になった。一度動画に集中してしまえば気にならなくなる(慣れただけ?)が、やはり少しもったいない。強化ガラスを剥がすわけにはいかないため、もう我慢するしかないのが残念。

YouTubeのVR動画は見れないと思った方がいい

正式に対応しているコンテンツは2つだとしても、そもそもスマホをレンズで覗いているに過ぎないわけだから、YouTubeにアップされているVR動画を再生すればいいじゃない。と思うかもしれない。

しかし、YouTube動画は見れないと思った方が良い。正確に言うと、見ようと思えば見れるのだが面倒すぎるので見れないと思った方がいい。

どういうことかというと、例えばXperia Viewで正式にサポートされているVRコンテンツ(DMMと360Channel)を見る場合の流れは以下のようになる。

  1. Xperiaで専用アプリを起動する
  2. アプリを起動したままXperiaをXperia Viewにセットする
  3. Xperia Viewを頭に装着する
  4. 後は首振りと決定(シャッターボタンで決定)で操作する

この時の4.の決定する操作(シャッターボタンを押す)がこの専用アプリ以外の状態(ホーム画面など)では機能しないのである。(間違ってたらすみません、私は機能しませんでした)

そのため、専用アプリ以外の例えばYouTubeなどを起動した状態でXperia Viewを覗いても決定の操作ができない。ただYouTubeのトップ画面を眺めることしかできないのだ。(首振りは機能する。でも決定ができないから意味ない。)

もしYouTubeのVR動画を見ようと思ったら、対象の動画を再生した状態でXperia Viewにセットして頭に装着する必要がある。そして、終わったらまた取り外さないといけない。これは面倒すぎる。しかもこの時、動画はリピートモードで再生しておかないと、Xperia Viewにセットして装着するまでに流れる映像は見れなくなってしまう。この実際の流れは以下のようになる。

  1. XperiaでYouTubeのVR動画をリピートモードで再生する
  2. 動画の終了時間の少し前まで進める
  3. そのままの状態でXperiaをXperia Viewにセットする
  4. Xperia Viewを頭に装着する
  5. 鑑賞する
  6. 動画が終わったらXperia Viewを頭から外す
  7. Xperia Viewからスマホを取り出す
  8. 他の動画を見たい場合は1.に戻る

とても面倒なのがわかると思う。

ただ、これはソフトウェアのヴァージョンアップで対応できる話な気がする(通常の状態でもシャッターボタンで決定できるようにするだけで良い)ので、ぜひ何とかしてもらいたい。YouTubeのVR動画がストレスなく見れると、かなりコンテンツの幅が広がる。

PS5のコントローラに対応していない

専用アプリ上の操作は、基本的には首振りとシャッターボタンの決定で行うが、もう一つ、PS4のコントローラを使う方法もある。XperiaとPS4コントローラ(DUALSHOCK4)を接続することで、コントローラを使って操作できるようになるのだ。

しかし、なぜか新しい規格のPS5のコントローラ(DualSense)には対応していない。私はPS5のコントローラを持っているので使えるのかと期待したが駄目だった。PS4もPS5もどちらもSONYなのになぜ対応していないのか。エンジニアが途中で力尽きた感が凄いのだが…

良かった点

VRを体験できた

初めてVRというものを体験することができ、自分の中で良い経験となった。ただ、これは他のVRデバイスでもできたことなので、厳密にはXperia Viewを買って良かった点という訳ではない。

乃木坂46のライブ動画が凄い

Xperia Viewの購入特典として、乃木坂46の無料コンテンツが配信されているのだが、その中で2022年1月20日から公開されている、ライブパフォーマンス篇『君に叱られた』がとても良かった。他にも無料コンテンツはあるのだが、VRでライブを見るとこんなに臨場感あるんだ、と少し感動までしたのはこれが唯一だった。

そこまでがっつりな乃木坂ファンという訳でもない私ですらそうなのだから、VRとライブの相性が良いのだと思う。

ライブパフォーマンス篇『君に叱られた』

特設ページでいくつかフォトギャラリーが公開されている。

(実際の動画を撮ろうかとも思ったが、著作権ガードがガチガチに掛かっていてキャプチャできなかったため諦めた。こういう時は諦めよう。)

『いつか混ざりたいものです』ライブパフォーマンス篇 メイキングフォトギャラリー
『いつか混ざりたいものです』ライブパフォーマンス篇 メイキングフォトギャラリー
『いつか混ざりたいものです』ライブパフォーマンス篇 メイキングフォトギャラリー
全て特設ページのフォトギャラリーより

VR動画を2次元の画像にするとどうしてもクオリティが低くなってしまうのが悔しいが、上の画像の3枚目のシーンの臨場感が凄い。カメラを中心にして乃木坂46の方たちがパフォーマンスしているので、全員と視線が合う。見ているとなんか緊張感(というか恥ずかしさ)すら感じる。2次元のディスプレイで緊張感を感じたことは今までなかったので、これがVRの凄さなのだろう。

想像だが、ガチの乃木坂ファンの人ならこの動画を見るためだけにXperia 1 ⅲとXperia Viewをセットで買っても元は取れるのではないかと思ってしまった。それくらいライブ×VRには可能性が広がっているのかもしれない。(乃木坂46の無料コンテンツは2022年4月末までの期間限定)

Xperia ViewはSONYの伝説のデバイスになる

私の予想だが、十数年後にこの「Xperia View」はSONYの伝説のデバイスになっている気がする。日本で唯一と言っていい世界レベルで頑張っている総合電機メーカーのSONYが、需要もない、コスパも悪い、意味も分からない謎のデバイスを生み出した。明らかに市場に流通している数も少ないだろう。

もし十数年後にSONYがVRで世界の覇権を取ったとき、この「Xperia View」はそんなSONYが黎明期に大失敗した伝説のVRデバイスとしてSONY博物館に飾られることだろう。その頃にはプレミアが付いてマニアが喉から手が出るほど欲しがるアイテムになっているはずである。そうなることを期待して私はこのXperia Viewを大切に保管しようと思う。

価格は順調に下がっている

このXperia view、やはり需要がないため価格が順調に下がっている。

楽天での比較は以下から見れるので確認してみてほしい。(2022年2月時点では、最低価格は27,000円台くらいになっていた)

価格コムではなんと22,000円台のショップも出てきている。こちらも合わせて確認するとお得に手に入れることができるかもしれない。