「税金は政府の財源ではなく、貨幣供給量を調整する手段である。そして、政府の財政赤字は国民の黒字を生み出す。」
日本の経済成長が30年近く停滞している最も大きな原因は「間違った認識」を基にした間違った経済政策である。「間違った認識」 とはつまり、冒頭で述べたことと逆の「税金は政府の財源であり、政府の財政赤字は減らさなければならない」という認識である。この認識は広く一般に浸透してしまっているが、実は大間違い(どころか真逆)なのである。これはその昔、地球が宇宙の中心にあるとする天動説を多くの人々が信じていたのと同じだ。人間は時に事実とは真逆のことを真実だと思い込んでしまうことがある。
それではまず、「税金は政府の財源ではない。」について考えてみる。
これは考えてみれば当たり前の話である。仮に税金が政府の財源なのだとしたら、政府が支出して何かやろうとする際には事前に国民から税金を徴収しなければならなくなる。え?そうやってるんじゃないの?と思うかもしれないが、ここで日本政府が発足した初期のことを考えると何かおかしいことに気付く。そう、日本政府が発足した最初の時点ではまだ誰も円を持っていない。それなのに、政府が道路を作りたいから税金を払えと国民に命令したところで、持っていないものを納めることはできない。どう考えても、政府が円を発行して国民に供給(政府支出)するのが先ということになる。つまり、そもそも政府は税金を徴収しなくとも支出できなければならない(税金が財源であってはならない)訳である。
母親に肩たたき券をプレゼントしようとする子供は、自分で肩たたき券を発行する。「お母さん!お母さんに肩たたき券をあげたいからまず私に肩たたき券を頂戴!」などとは言わない。円も肩たたき券も、発行する前に徴収することは不可能である。
そしてよくよく考えると、現実の政府支出と納税の前後関係も発行→徴収になっている。繰り返しになるが、仮に税金が政府の財源だとすれば、ある1年の政府の支出の流れは国民の納税→政府支出となるはずだ。しかし現実はその逆で、政府支出はその1年の中で支払われるが、国民はその1年が終わってから税金を収めている(確定申告が良い例)。つまり、政府支出→国民の納税の順番になっている。このように、これらのことを我々は「思い出す」だけで税金が政府の財源でないことを認識することができる。
次に、「政府の財政赤字は国民の黒字」について考える。
こちらはほとんど自明である。例えば、新しい道路を作るために政府が1兆円分の新規国債(赤字国債と呼ぶ人もいる)を発行し、1兆円を生み出して政府支出として民間の建設会社に支払った(円を国民に供給した)とする。これはそのまま、財政赤字が1兆円増えて民間の黒字が1兆円増えたことになっているわけだから、「政府の財政赤字は国民の黒字」になっていることがわかる。
また、その反対に「政府の財政黒字は国民の赤字」となる。政府の財政が黒字(政府支出<税収)ということは、全体で見ると民間に流通している円の量が減ること(つまり民間の赤字)になる。税金は政府にとっては収入(黒字)だが、民間にとっては支出(赤字)という訳だ。政府の財政を黒字にすることは国民を赤字にすることとイコールなのである。赤字か黒字かはどちらの立場で考えるかによって逆転し、誰かの赤字は必ず誰かの黒字になる。
なお、これに関しては2020年に実施されたコロナ給付金(国民一人当たり10万円)が良い例である。あの時政府は、新規国債を発行し給付金を配った。つまり、政府の財政赤字が(発行した新規国債の分)増え、そのまま国民の黒字がそれと同額増えた訳だ。これはまさしく「財政赤字が国民の黒字」となることを実証している。
「税は財源ではない」「政府の財政赤字は国民の黒字」この2つを理解することが重要である。
総合すると、
- 政府は国債を発行することで円という貨幣を生み出し政府支出という形で民間に供給する。(ここで税金の話はまだ出てこない)
- しかし、供給しすぎると流通している貨幣の量が増えて過度なインフレを引き起こしてしまうので、税金という手段を使って一部を回収することで調整する。(この政府支出と租税のバランス調整によって適度なインフレ状態を続けることが経済成長にとって理想的)
これが正しい認識であると考えられる。この認識を共有したうえで経済政策を考え実行すれば、日本は当然のように経済成長するだろう。
参考動画と要点のメモは以下の通り。
その他の参考動画