財政赤字は国民を豊かにする

日本経済の現状を理解する

まずは日本の経済の現状認識から始める。前提として、その国の経済力=GDPであるとする。

日本だけが1995年を過ぎたあたりから横ばい(参考動画より引用)

このグラフは日本と外国の名目GDPの推移を比較したものである。2014年までのグラフだが、傾向はこれ以降も同じなので現状認識としては問題ない。

1995年までは日本はアメリカと同じようにGDPが成長していたが、1995年を過ぎたあたりから日本だけ横ばいになっている。つまり経済成長していない。また、中国は2010年あたりから一気に日本を追い抜いて世界第2位の経済大国に躍り出ている。それと関連してか、日本のGDPを追い抜いたあたりの時期は、尖閣諸島に中国の船が来るようになった時期と重なるらしい。まさに、国の経済力は外交力であることの証拠であると言える。

因みに、1996年に発足した第2次橋本内閣は消費税増税などの緊縮財政を行った。これにより日本経済の景気減速が顕著となった。この、赤字国債発行を削減する等の財政再建路線は今日に至るまで続けられている。

次に、全世界における各国の名目GDPのシェアの推移を見てみる。

1995年には17%もシェアがあった(参考動画より引用)

日本は1995年には17.3%のシェアを持っていたが、2014年にはわずか5.9%まで減ってしまった。経済的な存在感は1/3になってしまったと言える。日本だけ掲載成長していないわけだから当然の結果だ。このままだと、2040年には日本のシェアは2.8%まで小さくなることが予想されている。2%とか3%になってしまえば、G7などは絶対に呼ばれないし、G20も呼んでもらえるか怪しいライン。

最後に、20年間の累計の名目GDP成長率ランキングを見てみる。

日本は成長率で最下位(参考動画より引用)

世界の平均は139%成長である。139%成長とは、わかりやすく言うと20年間で給料が2.39倍になるということ。20年前の大卒の初任給が20万円だったら、今は50万円という感じ。アメリカはほとんど世界平均と同じなのでそうなっている。

日本はグラフの一番右側で-20%成長である。マイナスということは、20年前と比べて給料が逆に減っているということ。日本だけが世界から経済的に取り残されている。これが今の日本の現状だ。

財政支出を減らせばGDPも減る

なぜこうなったかというと、これは明らかに経済政策の失敗によるもの。先にも述べたが、第2次橋本内閣から緊縮財政路線へ大きく踏み切ったことが直接的な原因である。

なぜなら、緊縮財政下では財政支出(政府支出と言ってもいい)を抑える訳であるが、この財政支出とはそのままGDPの構成項目なのだ(GDPの中に財政支出が入っている)。例として、2014年度の名目GDPの内訳を示す。

図表1-1-11 名目国内総生産(支出側)の構成
政府消費が財政支出(国土交通省HPより)

この中の「政府消費」という項目が財政支出である。このことから、財政支出を増やせばGDPが「直接的に」増えることがわかる。

逆に言えば、緊縮財政をして財政支出を減らせばGDPがその分減ることも自明となる。世界の先進国の中で、日本だけが何故か財政支出を減らす(=GDPを減らす)ことをずっと続けてきたのだ。他の先進国は財政支出を着実に増やしていき、その結果GDPも増えている。

この事実は、以下のグラフから見ることができる。

綺麗な相関関係がある(参考動画より引用)

財政支出の伸び率とGDP成長率をプロットすると綺麗な相関関係があることがわかる。上でも書いたが、GDPの内訳に政府支出が入っているのだからこの関係性が出るのは当然である。日本は財政支出の伸び率は0%で、GDP成長率も0%という当然の結果になっている。

この30年、日本は「無駄遣いをするな」「公共事業を削れ」「公務員の数を減らして給料も下げろ」とずっと言われてきた。これは財政支出を減らすことになり、そのままイコールでGDPを減らすことになる。つまり、経済成長しないように圧力をかけ続けたことになる。

経済成長したいのであれば、財政支出を拡大すればいい。これはほとんど自明なことである。

しかし、緊縮財政を推進する人たちは、このグラフを見て逆のことを言うらしい。このグラフは綺麗な相関関係を表しているが因果関係まではわからない。財政支出をしたからGDPが増えたのか、GDPが増えたから財政支出が増えたのか、どっちかわからない、という具合。なので、財政支出を増やすべきではなく、GDPを上げる政策をやるべきだという人もいるらしい。

ただ、個人的には今まで出てきたグラフと当時の内閣がやってきたことで因果関係まで推察できると思っている。これは、緊縮財政を強めた時期からGDPが横ばいになっていることから導ける。なぜなら、1995年あたりまではアメリカとほぼ同じペースで経済成長していた(GDPが増えていた)わけなので、当時の話の順序としては、

GDPが順調に増えている状況で、緊縮財政(財政支出を減らす)をしたら、その結果としてそれまで増えていたGDPが横ばいになってしまった。

と考えるのが自然だ。ここに、因果関係の原因(緊縮財政)と結果(GDP成長の鈍化)を推察することができる。ここで「推察」と書いたのは、因果関係を証明することは難しい(反論しようと思えばできてしまう)からだ。

さらに、百歩譲って因果関係が逆だった(GDPが増えたから結果として財政支出が増えた)としても、GDPを上げるためには結局のところ財政支出をすればよい(何度も言うが、財政支出はGDPの構成要素)ので、順番としては、財政支出を増やす→GDPが上がる→財政支出が増える、となり、どちらにせよ最初にするべきは財政支出を増やすことになる。

やはり、財政支出を拡大すればGDPも拡大するとみるべきである。

日本経済の停滞は深刻な問題を引き起こす

20年間の累計の名目GDP成長率がマイナスであることは、日本の生産活動が縮小し続けていることを意味する(生産の合計がGDPなので)。その結果、物価は下落(デフレ)し、またさらにGDPが下がるという負の連鎖(デフレスパイラル)に陥っている。デフレがこれほどの期間続くのは、他の先進国でも例をみない事である。

そして、デフレは様々な問題を引き起こす。

日本の問題の根源はデフレ(参考動画より引用)

日本の後進国化(≒外交力の低下)に始まり、上の図にあるような大きな問題が顕在化している。デフレ下では、企業は何をやっても儲からない、なので従業員の給料も上がらない、需要が無いから投資もしない、という風にどんどんやれることが減っていく。その結果、企業、地方自治体、研究機関など全ての組織が疲弊した社会になってしまう。

日本は財政破綻しないし、ハイパーインフレにもならない

なので一刻も早くデフレから脱却することが望まれるわけだが、これを邪魔しているのが、「日本は借金大国だ」「日本の財政派破綻寸前だ」といった間違った認識である。政治家、官僚を含めた国民の多くが陥っているこの誤解がデフレ脱却(=日本の経済成長)への一番の障壁となっている。

しかし、日本は財政破綻しないということは財務省が公式見解として述べている。

日本は財政破綻しない(財務省HPより)

財政破綻が何を言っているのかというと、恐らく、「借金(国債)が返せなくなる状態になる(つまりデフォルト)」ということだろう(実は財政破綻にちゃんとした定義はなさそう)。しかし、財務省が言っている通り、日本の国債のデフォルトは考えられない。なぜなら自国通貨建てであり、日本は通貨発行権を持っているので日本円が払えなくなるということはあり得ないからだ。(お金を作り出せる人がお金が払えなくなることはあり得ない)

つまり、日本政府は公式に財政破綻しないと言っているわけである。ただ厄介なのは、日本が財政破綻すると言っている(脅している)のも財務省なのである(矢野論文が記憶に新しい)。財務省は、日本人に対しては「財政破綻する」と言い、海外に対しては「財政破綻しない」と言う二枚舌を使っている。これが、正しい事実の認識を大いに邪魔している。

さらに重要なこととして、財務省はハイパーインフレになる懸念がゼロに等しい(つまりならない)という公式見解も出している。

ハイパーインフレにならない(参考動画より)

「日本は財政破綻しないし、ハイパーインフレにもならない。」ということである。このことを理解できれば、正しい経済政策が打てるようになる。正しい経済政策とは最初の話の通り、財政支出を増やしてGDPを上げるということである。

政府の赤字は国民の黒字

政府は国債(赤字国債)を発行し、財政支出を増やすことができる。これは、政府が貨幣を発行している(日本円を創造している)ことに他ならない。国債発行によって、民間に流通する貨幣の総量を増やしているわけである。民間に流通する貨幣の量が増えるということは、そのまま国民の資産が増えることを意味するが、これはデータからも確認できる。

一般政府債務と家計金融資産(参考動画より)

赤字国債の量(一般政府債務)と国民の資産(家計金融純資産)に綺麗な相関関係があることがわかる。政府が負債を拡大すると、ちゃんと国民の資産は増えている。政府の赤字が国民の黒字になっているわけである。

このことは、10万円給付の例を考えるとわかりやすい。コロナ禍での10万円給付は、政府が国債を12兆円発行して実行した(財源は全額国債であった)。つまり、赤字国債を12兆円発行して、国民の預金通帳の残高を12兆円増やしたことになる。まさに、政府の赤字が国民の黒字となっている。

これらの事実からも、財政赤字の拡大が国民を豊かにし経済成長の原動力になる(個人消費の需要が増えるので)ことがわかる。

詳細は以下の記事にも書いてある。

財政政策は経済をコントロールすることが使命

政府の赤字は国民の黒字であるが、財政赤字をずっと続ければいいかというとそうではない。財政黒字を目指さなければいけない時期もある。財政赤字を拡大し、民間に流通するお金が増えすぎると、過度なインフレとなりそれはそれで経済的にマイナスな現象となる。そういう時には、適切なインフレ率、貨幣共有量になるように、財政赤字を減らしたり(黒字を目指す)税金を使って回収したりしてまさに経済をコントロールする必要がある。

代表的なのがバブルの時期である。バブル期には、民間に流通するお金の量が「日本の生産能力以上に」増えすぎたため、余ったお金で株や土地が買われてそれらの価格が爆上がりしてしまった。こういうときには、財政支出を減らしたり、税金を増やしたりするような財政政策が必要になる。

つまり、国内で「安定的に貨幣の量が増えていく」ようにコントロールすることが政府の財政政策の役割である、と言うことができる。因みにこのことから、税金は経済をコントロールする手段であって、政府の財源でない事も(副効果的に)理解できる。

参考資料

参考動画は以下の通り。